違和感を抱えながら生きる人・村田沙耶香
小説家・村田沙耶香の特集記事を読んだ。
いくつか興味を惹かれる部分があったので、触れてみたい。
村田沙耶香はこんな人
小説家、エッセイスト。
1979年生まれ、37歳。
作家仲間からは、クレイジー沙耶香と呼ばれている。
代表作に、
'"10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」によって人口を保つ日本を描く『殺人出産』"
"父と母の〈交尾〉で生まれた主人公・雨音。彼女は朔と結婚し、母親とは違う、セックスのない清潔で無菌な家族をつくったはずだった。
「セックス」も「家族」も、世界から消える……『消滅世界』"
などがある。
村田作品に対する感想
Amazon等のレビューを見ていると、「気持ち悪い」というものが、目につく。
だが、面白いことに、同じ「気持ち悪い」という言葉を使った感想でも、どうやら評価は二つに分かれているようである。
それは、読者が感じた「気持ち悪さ」に、二種類あるからだと思う。
一つは、ある種の性的嗜好に対する不快感。極端にわかりやすく言い換えてしまえば、下ネタが嫌いという感覚。
そして二つ目は、その性的嗜好がこの小説の中では、本来とは異なる意味を持って書かれていることに対する違和感である。
その違和感は、どこから来たのか。
村田沙耶香はこんな人 その2
彼女の発言に、その違和感の一部が垣間見える。
"玩具をねだる兄に、母が「うちは貧乏だから」と叱るのを聞くと、家族というだけで家に住まわせてもらい、ご飯を食べさせてもらい、お菓子を買ってもらうことに良心の呵責を覚えた。"
" みんな、家族だから愛していると言うけど、本当かなって思ってました。道徳の授業やテレビの中にも、見過ごしてはいけないような疑問を感じていました。
そうじゃない真実や正義があるのではって。"
つまり、大多数の人間が当然だと思っているものの裏側を、常に疑っている訳である。
誤解を受けそうなエピソードではあるが、家族との間にトラブルがある訳ではない。
こんな話もある。
"応援してもらって筆が鈍るのは嫌だと親しい人には小説のことは言わずに来たが、母との間に葛藤を抱える娘の話でデビューした時に、勘当を覚悟で「お母さんのことを書いたわけではないよ」とまず母に打ち明けた。"
常識に対する疑念や違和感が、家族や周囲の人間に、どう受け取られるのかも考えているのだと思う。
親しい人には、あえて打ち明けなかったところにも、彼女の優しさや繊細さ、そして防衛本能的なものを感じる。
一方、家族は性描写の多い末っ子の作品から、早々に撤退したらしいが、これも何とも言えない距離を生んでいる気がする。
彼女自身が、家族に読まれる事(=自分の一面を理解される事)を望んでいればの話だが。
そして、初めて両親を招いた芥川賞受賞式で、「人類を裏切るような言葉を探したい」と誓った。
野心と憎しみとが綯い交ぜになった宣戦布告のようだ。
自己防衛のための執筆
そんな彼女も、学生時代の一時期は、周囲の人たちの影響により、明るい少女だった事もあるようだが、結局は上手くいかなかった。
"同調圧力に迎合してしまう自分を激しく嫌悪し、「消えてしまいたい」衝動に襲われ続けた。この世界との融和感はなく、話を聞いてくれる大人を求めてテレクラに電話をかけ、「完全自殺マニュアル」を読みふけって、卒業式の1週間後に山で凍死すると決めてカレンダーに書き込んだ。"
幸いにも、この計画が実行される事はなかった。
彼女を救ったのは、物語を書く という行為だったらしい。
物語を書く過程で、自身の内面やいじめの当事者の心情を分析して、傷ついた心を回復させる方法を覚えたそうだ。
最後に
違和感を持ち、苦しんで来た村田沙耶香は書き続ける事で、自分を守り生き続けてきた。
同じように、社会にうまく馴染めない者として、どう自分自身や周囲と折り合いをつけるかという、一つの方法を知ることが出来た。
それを自分のものに出来るかは分からないが、とりあえず、ブログで何かしら書いていくことのモチベーションにしたいと思う。